【産婦人科専門医監修】卵子凍結!男性からの理解は得られる?

卵子凍結 男性からの理解 監修医師 産婦人科専門医 大村美穂医師

現状ではヒトが子供を持ちたい場合、卵子と精子の両方が必要です。
最近では、医療技術の進歩から卵子凍結の技術も発展しており、働く女性が将来の妊娠に備えて卵子凍結をする例も増えています。

女性からは卵子凍結に対して好意的な声が寄せられていますが、実際の男性から卵子凍結はどのように理解されているのでしょうか?

本記事では、まず卵子凍結の意義やメリット、女性の選択肢のひとつとしての卵子凍結の重要性についてお話しします。
その後、実際に男性からいただいた意見を示し、卵子凍結への現状の男性の認識についてまとめます。

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監修医師

大村美穂 医師

産婦人科専門医
がん治療認定医
NCPR(新生児蘇生法)専門(A)修了
JMELS(母体救命)ベーシック修了
JMELSアドバンス修了

もくじ

卵子凍結とは

卵子凍結とは、女性が将来の妊娠や出産に備えて自身の卵子を凍結保存する方法です。

妊娠する能力を妊孕性(にんようせい)といいますが、卵子は、年齢とともに質と量が減少し、妊孕性は低下していきます。卵子凍結により、時間の経過による卵子の老化や質の低下を防ぐことができます。

卵子凍結は目的別に、以下のように分けることができます。

■医学的卵子凍結:
医学的な理由で行われる卵子凍結のことを医学的卵子凍結といいます。1)2)

< 適応例>
・がん治療などによる放射線療法や化学療法により卵巣機能の低下が予想される場合

■社会的卵子凍結:
社会的な理由で妊娠や出産を後回しにしたいと思った場合に行う卵子凍結といいます。
ノンメディカルな卵子凍結とも呼ばれます。これらの理由の場合、卵子凍結によって、自分のタイミングで妊娠及び出産を計画することができます。3)

<適応例>
・将来の妊娠や出産のために、若く健康な卵子をできるだけ保存しておきたいと考える場合
・女性が自身のキャリアや教育に集中するために、将来の出産を遅らせたいと思う場合
・女性は妊娠や出産を望んでいるがパートナーがいない、または見込みがない場合

卵子凍結のプロセスは、ホルモン注射による排卵誘発、卵子の採取、凍結保存が含まれます。

卵子凍結の流れ

そして時間を経て必要な時に凍結しておいた卵子を解凍して子宮に移植することを胚移植といいます。

特に社会的卵子凍結の場合は、将来子供を望む女性にとって自身のキャリアと出産の両方の可能性を広げるためのひとつの選択肢といえます。

男性も将来自身の子供を望む場合は、精子凍結という方法があります。

では卵子凍結と精子凍結にはどのような違いがあるのか、次の章で説明します。

2.卵子と精子の違い

よく知られている通り、一般的に男女では生殖能力について違いがあります。

まず、年齢による男性の生殖能力の変化について説明します。

<年齢別の男性の精液所見>

<40歳40~49歳≧50歳
精液量(ml)3.72.72.1
精液濃度(10⁶/ml)767659
精子運動率(%)575343
表1)Stewart AF, et al. Urology 78:496-499, 2011

年齢別の男性の精液所見表1)によると、50歳を超えると精子濃度が減少していることが確認されています。つまり、年を取るにつれて男性の体内で生成される精子の数が減ってしまうのです。

さらに、年齢とともに精子運動率も徐々に低下していく傾向があります。
精子運動率とは、精子がどれだけ活発に動いているかを示す指標であり、妊娠には精子が卵子に到達する必要があります。
しかし、年を取ると精子の運動能力が低下し、卵子に到達する確率が減ってしまうのです。

一方で、男性の妊孕性の低下は比較的緩やかであり、50歳から54歳の男性でも20代後半の男性と比較しても約73%方で妊孕性が保たれているというデータもあります4)。
ただし、全体的には年齢が上がると男性の妊孕性は低下していく傾向にあることは確かです。

次に、卵子と精子の違いについて知るために卵子と精子を比較します。

​<卵子と精子>

女性男性
受精の機会月1回毎日
卵子・精子新しくつくられない新しくつくられる
加齢による妊孕性の低下大きい小さい

女性は月に一度、基本的には1つの卵子が排卵されますが、男性は毎日射精することができます。
この違いは、卵子と精子の生成の仕組みに由来しています。
女性の場合、卵子は生まれたときに全ての数が決まり、新たに生成されることはありません。
一方、男性は思春期以降、毎日新たな精子が生成されるのです。

最後に、年齢による妊娠しやすさの低下の割合について考えましょう。

年齢とともに、女性の妊孕性は低下していきます。
これは、卵子が生まれたときに全ての数が決まり、新たに生成されることがないことが原因です。
一方で、男性の場合は精子が毎日生成されるため、年齢による妊孕性の低下は女性よりも男性の方が緩やかです。

つまり、男性は比較的高齢になってもある程度の妊娠能力を維持することができると考えられます。

ただし以上は一般的な傾向であり、個々の人によって異なり、高齢でも妊娠する場合もあります。

3.卵子凍結と精子凍結の違い

卵子凍結、精子凍結のそれぞれの違いについて簡単に説明します。

卵子凍結は前述のとおり、女性の卵子を凍結する方法です。

精子凍結はマスターベーションにより射精した精子を凍結する方法で、将来的に妊娠を希望する女性との受精に使うことができます。
男性の年齢による妊孕性の低下は緩徐であるため、基本的にはがん治療や手術によって生殖能力が低下する可能性がある場合に行われることが多いです。

卵子凍結と精子凍結の違いを表にまとめました。

似ている項目もあるものの、女性側により大きな負担がかかることも示唆されています。5)6)

​<卵子凍結と精子凍結の違い>

卵子凍結精子凍結
目的将来の妊娠可能性を高めるため
方法液体窒素を使って冷凍する
対象卵子精子
一度に採取できる個数少ない多い
採取までのプロセスの多さ多い(排卵誘発剤により卵子を成熟させたうえで、採卵手術を行う)少ない
費用の考え方採卵費用×回数+保存費用×保存期間採取費用×回数+保存費用×保存期間

4.卵子凍結の男性への理解

20代~40代の男性8人を対象にアンケートを実施しました。その結果をまとめます。アンケートから得られた意見は編集しています。

質問①:男性からの認知度

 アンケートに答えてくれた男性は全員聞いたことがあるという回答でした。

質問②:男性からのイメージ

  • 卵子凍結は、将来子供を持ちたいときに利用する選択肢のひとつですが、日本ではまだまだ普及がこれからといったイメージがあります。
  • 意識の高い方々が利用するイメージを持っています。
  • 潜在的なニーズは多いものの、知識や経済的なハードルが高く、活用が進んでいない印象があります。
    しかし、実際には想像以上に手続きは簡単であり、女性の将来に役立つものとなっているように思います。
  • 具体的には、将来妊娠を望んだ時に、より良い状態の卵子を保存するというイメージです。また、高齢出産に備える一つの有効な手段としても捉えられます
  • 現代では晩婚化が進んでおり、個人の将来に対する配慮として卵子凍結が選択されています。このような取り組みは出生率の向上にも寄与し、元気な子供を産む確率を高める助けとなると思います。

質問③:卵子凍結への懸念点

  • 卵子凍結の使用方法についてはまだ理解ができていないです。
  • 不妊のリスクを回避できるのかどうかが気になります。
    また、卵子凍結には費用や保存期間についての情報が不足しており、どれくらいの負担がかかるのか、凍結からどのくらいの期間卵子が有効なのかがわかりません。
  • 卵子凍結がもっと一般的になってほしいと思いますが、あえてリスクを取る必要はないと感じます。
  • 具体的な流れや保存期間、妊娠に至るプロセスについてもっと詳しく知りたいです。
  • 保存期間が卵子の品質に影響するのか、新鮮さがどの程度保たれるのかについて知りたいです。
    また、卵子の元気さだけではなく、子宮の状況なども出産する際の制約に関わってくると思うので、その条件面についても明確になってほしいです。

質問④:家族が卵子凍結をするとしたら賛成?反対?

賛成7人、反対0人、どちらでもないが1人でした。

【賛成の根拠】

  • 特にデメリットが思いつかないため、卵子凍結に賛成しています。男女ともに若い時間は非常に貴重であり、年齢とともに生殖機能の低下や障害リスクが増加します。
    そのため、出産を意識しながら時を過ごすことになりますが、卵子凍結によってこのような懸念を少しでも払拭できるのではないでしょうか。
  • 日本人の女性は出産の時期を気にしている人が多い印象です。
    早く産むことに問題はないのですが、自分の産みたいタイミングで子供を持つことができれば、人生の楽しみが広がると考えています。
    また、妊娠を望んだタイミングで最も優れた状態の卵子を利用できるのは、良いと感じます。
  • 私は特に反対する理由がないため、卵子凍結に賛成しています。
    卵子凍結には異常がない場合、選択肢として十分に妥当だと考えます。元気な子供を産む確率の低下を防ぐ可能性があるなら、それに越したことはありません。
    ただし、コストの面や他の要素とのバランスも考慮する余地があります。

【どちらでもないの根拠】

  • 私は女性自身が自分の将来について決定する権利を持っていると思います。
    女性が卵子凍結を選択するかどうかは、自身の意思によって決めるべきです。私は他人に代わってその選択を制限することに反対しています。
    自身が自分の人生に関する重要な決断を下すことができるよう、支援するべきだと考えます。

男性からの理解を得るために必要なこと

家族が卵子凍結をする場合に賛否があるものの、アンケートに回答者の皆さんは、女性の選択を尊重してくれている意見が多い傾向がありました。

しかし、回答者の多くが卵子凍結に関する情報の少なさに言及しており、卵子凍結のメリットやデメリット、費用のような現実的な詳細な情報が必要であるといえます。

5.まとめ

今回は、卵子凍結について、男性からの理解を得るために、卵子凍結と精子凍結の違いを確認し、実際の男性の意見をまとめました。

その結果、アンケートに回答した男性は総じて女性の選択を尊重してくれる傾向にありました。
しかし、家族が卵子凍結する場合に賛成か反対かという話になると、情報の少なさから賛否が分かれました。

子を持つには男女両方が、御互いを理解し合い協力する必要があります。
将来自身の子をもちたい女性が卵子凍結するにあたって、男性の理解を得るために重要なのは、卵子凍結のメリットやデメリット、費用などの情報を共有することです。
男性に対しても正確な知識を普及させることが重要だと考えられます。

さらに、男性からの理解を得るためには、女性からも主体的に情報を提供し、対話を進めることが必要です。それにより、男性自身が卵子凍結に関する関心や関与を高められることが期待できます。
男女間の協力と相互理解を深めることで、卵子凍結に関する社会的な認識を広げることができるでしょう。

監修医師 産婦人科専門医 大村美穂医師

1)日本生殖医学会:医学的適応による未受精卵子あるいは卵巣組織の凍結・保存のガイドラインhttps://www.jsrm.or.jp/guideline-statem/guideline_2013_01.pdf

2)厚生労働省:医学的適応による未受精卵子,胚(受精卵)および卵巣組織の  凍結・保存に関する見解httpss://www.mhlw.go.jp/content/10901000/000747593.pdf

3)日本生殖医学会:社会的適応による未受精卵子あるいは卵巣組織の凍結・保存のガイドライン

http://www.jsrm.or.jp/guideline-statem/guideline_2013_02.pdf

4) G.Mineau and J.Trussell, Demography 19, 335(1982)

5)河村 和弘(2014年)未授精卵子凍結保存の現状 臨婦産・68巻8号 83-87

https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2014/143021/201411016A/201411016A0005.pdf

6)岡山大学:採精・精子凍結~妊孕性温存の実際~https://www.okayama-u.ac.jp/user/ofnet/for_medicalworker_document_2.html


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