この記事の監修医師
島袋 朋乃医師
日本産科婦人科学会専門医
医学の進歩により、近年、卵子凍結が注目されています。
卵子凍結は、女性が将来の妊娠を希望する場合に役立つ方法です。
なかでも、社会的卵子凍結、すなわち「ノンメディカルな卵子凍結」は結婚や出産を延期する女性にとっての重要な選択肢と近年話題になっています。
当記事では、医学的卵子凍結と社会的卵子凍結の違いについて詳しく解説します。具体的なプロセスから、効果やリスクといった卵子凍結に関するあらゆる疑問を解消します。卵子凍結に興味がある方、将来の選択肢を増やすための情報を知りたい方は、ぜひご一読ください。
重要性
女性の人生設計をより良くするために、卵子凍結は有意義な選択肢です。
しかし、医学的卵子凍結と社会的卵子凍結は、選択するまでのプロセスや意義が異なります。医学的卵子凍結と社会的卵子凍結のメリットとデメリットをきちんと理解し、自身の未来をより明確に描きましょう。
卵子凍結の背景と種類
医学的卵子凍結と社会的卵子凍結は、どちらもが女性が人生設計を立てる上での選択肢をより増やす方法です。
医学的卵子凍結は、病気の治療により将来的な生殖機能低下のリスクが予想される女性に利用されます。一方、社会的卵子凍結は、女性個々が描く人生設計に応じて選択されることがあります。
医学的適応と社会的適応
医学的適応は、医療的介入によって生殖機能の低下のリスクがある女性が対象となるため、社会的適応とは適応基準が異なります。
医学的適応とは、がん治療によって将来生殖機能の低下のリスクが懸念される女性を対象とする卵子凍結のことをいいます。
一方で社会的適応、すなわち「ノンメディカルな卵子凍結」とは、キャリアを構築したい女性や未だパートナーが見つかっていない女性が、将来の妊孕性を確保するために未受精卵子を凍結する女性を対象とする卵子凍結のことをいいます。
医学的卵子凍結とは
医学的卵子凍結は、がん治療をはじめとした医療的介入が原因で卵巣機能が低下する恐れがある女性に対し、リスクを懸念して卵子を凍結し、妊孕性を温存する女性を対象とします。
治療の一環としておこなわれるため、未成年者での適応や国が提示している助成金制度を利用できる場合があります。
卵子凍結の補助金については、こちらで解説しています。
卵子凍結記事 補助金 | 株式会社THREE (three-313.com)
医学的適応の基準
医学的適応は主に、がん治療をはじめとした将来的に卵巣機能が低下する可能性がある病気の治療を受ける女性が対象です。
がん治療や手術を受ける場合、治療前に卵子を凍結しておくことで、将来の妊娠や出産の可能性を残すことができます。
しかし、凍結予定である卵巣に悪性腫瘍が認められる場合は、卵巣の組織を凍結保存することは不可能とされています。したがって、卵巣に病巣がないと認められる場合に限り、凍結・保存が適応されます。 また、原疾患を治療する主治医にも了承を得ておく必要があります。
社会的卵子凍結「ノンメディカルな卵子凍結」とは
社会的卵子凍結は、結婚や出産を希望する時期を自分で選択したいという女性を対象とする卵子凍結のことをいいます。
日本産科婦人科学会が提唱する「ノンメディカルな卵子凍結」も社会的卵子凍結にあたります。
女性の妊孕性は年齢が増すごとに低下します。妊孕性の低下を考慮してキャリア構築を諦めたり、パートナーとの出会いを急いだりする女性の存在は、現代では珍しくありません。
そんな女性たちが人生をより良く設計するための選択肢として、「ノンメディカルな卵子凍結」が提唱されています。
近年では、福利厚生として企業に勤める女性職員が利用できる制度としても採用されています。
社会的適応の基準
社会的卵子凍結は、将来の妊娠を希望しているが現在の状況ではそれが困難な場合、社会的卵子凍結を利用することで自分の卵子を保管しておくことで将来の妊孕性を温存するための選択肢です。
社会的適応は、利用できる助成金制度が自治体によって異なったり、卵巣凍結を行っている医療機関によって適応となる年齢が異なったりと明確な基準が設けられていません。
日本生殖医学会が提唱する「社会的適応による未受精卵子あるいは卵巣組織の凍結・保存のガイドライン」では、凍結する女性は成人を対象とし、40歳以上の未授精卵子の採取は推奨していません。 また、凍結した卵子を45歳以上で使用することも推奨されていません。
卵子凍結の結果と潜在的リスク
現代の医療技術では、凍結した卵子による妊娠成功の確証は得られません。
未授精卵子の採取時の年齢や胚移植時の年齢などあらゆる要素によって、妊娠成功率が変動します。
卵子凍結による妊娠成功率が、100%ではないことを留意しておきましょう。
卵子凍結による妊娠成功率
凍結した卵子による妊娠成功率は、主に採取した卵子の質と数量、そして女性の年齢に大きく依存します。
凍結した未授精卵子の採取率がおよそ90%を超えていても、採取した卵子個々での出生率はおよそ5%も満たない数値を示します。
また、25歳時に未授精卵子を20個採取し凍結保存した場合と、35歳以上で未授精卵子を20個採取し凍結保存した場合では、出生率の差異はおよそ20%にものぼります。
女性の人生設計における選択肢を大きく広げられる卵子凍結ですが、その妊娠成功率が100%ではないことを理解しておくことが重要です。
参考URL:https://www.jsog.or.jp/activity/art/2020_ARTdata.pdf
卵子凍結のリスク
卵子凍結は生殖医療の一部として、多くの女性にとって希望をもたらします。
しかし、リスクがないわけではありません。
卵子凍結のリスクには、卵巣過剰刺激症候群や手術に伴う感染症があります。
卵子を採取するためのホルモン治療には、一時的な閉経症状や稀に重篤な副作用(卵巣過剰刺激症候群)があることを認識しておく必要があります。
さらに、高額な費用がかかる点はデメリットといえるでしょう。
凍結から出産までの全プロセスが自費診療となるため、凍結保存の間も高額な費用を必要とします。医学的適応であれば助成金制度を利用できますが、いずれにせよ高額な費用がかかる点は双方に変わりありません。
卵子採取のためのホルモン治療の副作用、卵子採取時の感染リスク、そして何より凍結させた卵子からの出産が必ずしも保証されないことを理解しておく必要があります。